食品業界が求める安全基準、その名はHACCP。
しかし、国際規格との関係やその違いは、しっかりと理解していますか?
この記事は、食品衛生管理の専門家がHACCPと国際規格の全貌を分かりやすく解説します。
食品安全管理システムの概要
食品産業における安全性の確保は、消費者の健康と信頼を守るための極めて重要な要素です。
これを支える食品安全管理システムとして、いくつかの国際的な規格や基準が存在します。
HACCPの基本と目的
HACCP(ハサップ)は、食品の安全を確保するためのシステムのことです。
このシステムの核心には、危険因子を特定し、それらを管理・制御するポイントを明確にするという考え方があります。
HACCPの主な目的は、食品の生産過程での危険を予防し、消費者に安全な食品を提供することです。
HACCPとは?
Hazard Analysis and Critical Control PointHACCPとは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。
この手法は 国連の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格 (コーデックス) 委員会から発表され,各国にその採用を推奨している国際的に認められたものです。
引用:HACCP(ハサップ)-厚生労働省
ISO22000の基本と目的
ISO22000は、国際標準化機構(International Organization for Standardization)が定めた食品安全の規格で、国際的に認められた食品安全管理システムの一つです。
別名をFSMS(Food Safety Management System:食品安全マネジメントシステム)とも言い、その構成は、マネジメントシステム(経営のしくみ)部分と食品安全を担保するためのHACCP(危害要因分析と重要管理点)部分から成ります。
この規格は、食品のサプライチェーン全体におけるリスクの管理を重視しています。
ISO22000の目的は、組織が食品安全のリスクを絶えず管理し、改善を継続して行うことで、安全な食品の供給を確保することです。
国際標準化機構とは?
International Organization for Standardization略称: ISOは、各国の国家標準化団体で構成される非政府組織である。
スイス・ジュネーヴに本部を置く、スイス民法による非営利法人である。
1947年2月23日に設立された。国際的な標準である国際規格 (IS : international standard) を策定している。国際連合経済社会理事会に総合協議資格 (general consultative status) を有する機関に認定された最初の組織の1つである。
引用:Wikipedia
FSSC22000の基本と目的
FSSC22000は、ISO22000をベースにした食品安全認証です。
より具体的な要求項目として、技術仕様を追加しています。
FSSC22000の目的は、食品製造業者が国際的な基準を満たしていることを確認し、信頼性の高い食品の生産を促進することです。
これらのシステムや規格は、食品産業における安全性の保証と、消費者の信頼の獲得に大きく貢献しています。
各規格の違いと関連性
食品安全管理の規格は、その背景や範囲、詳細な要求項目において異なる特徴を持っています。
しかし、それぞれの目的は食品の安全性を確保することにあります。
それでは、これらの規格の違いと関連性について詳しく見ていきましょう。
HACCPとISO22000の違い
HACCPは食品の危険因子を特定し、それらを制御するための手段を提供するシステムです。
一方、ISO22000は食品安全管理システム全体のフレームワークを提供します。
HACCPは、危険を特定し制御する方法に重点を置くのに対し、ISO22000はそのプロセスを組織全体に統合することに焦点を当てています。
HACCPとFSSC22000の違い
HACCPの基本的な考え方は、FSSC22000にも取り入れられていますが、FSSC22000はISO22000をベースにしているため、より具体的な要求項目や技術仕様を含んでいます。
このため、FSSC22000はHACCPの考え方を取り入れつつ、より詳細な管理手法を要求する認証制度となっています。
ISO22000とFSSC22000の関連性
FSSC22000はISO22000を基盤として作られた食品安全認証です。
つまり、FSSC22000を取得する組織は、ISO22000の要求項目をすべて満たしている必要があります。
加えて、FSSC22000は、特定の食品セクターに対する技術仕様や追加の要求を含んでいます。
これらの規格の違いを理解することで、組織の目的や状況に応じて最適な食品安全管理システムを選択する手助けとなります。
HACCPの義務化と国際規格としての位置づけ
食品の安全は消費者の信頼を得るための基盤です。
この背景のもと、HACCPが多くの国で義務化され、同時に国際規格としての位置づけが進んでいます。このセクションでは、HACCPの義務化の背景とその現状について詳しく説明します。
HACCPの義務化の背景と現状
食中毒の発生件数は近年下げ止まりの傾向にあります。高齢化人口の増加に伴い、食中毒リスクが高まることも懸念されていました。
また、先進国を中心にHACCPの義務化が進んでいる中で、日本はこれに遅れをとっていました。国際標準への対応として、食品事業者に対してHACCPに基づく衛生管理計画の作成と実行を求める動きが加速しました。
令和3年6月1日から、原則として、すべての食品等事業者の皆様にHACCPに沿った衛生管理に取り組んでいただくことになりました。
HACCPに沿った衛生管理の制度化について|厚生労働省
しかし、HACCPの完全義務化後の導入状況に関するとあるデータによると、大規模事業者の約9割がHACCPを導入しているものの、実際に「正確に管理できている」と回答しているのは約3割にとどまるとの結果が出ています。また、実行リソースや費用の確保が難しいという声が多く、小規模事業者や個人店では導入が遅れている傾向が見られるのが現状です。これは、HACCPの運用継続には現場教育と定期的なチェックが不可欠であること、HACCPの知識習得や実行の難易度が高いという認識が広がっていることが要因として考えられます。
まずは、従業員一人一人にHACCPが必要である理由を理解させることから始めましょう。
よくある質問
食品衛生の専門家として、HACCPや国際規格に関する疑問に答えることは重要です。
以下では、食品業界で頻繁に受ける質問に対する回答を提供します。
- QHACCPはどのような場所で義務化されているのか?
- A
HACCPは多くの国で義務化されています。特に、EU、アメリカ、日本などの先進国で、食品製造業者はHACCPの原則に従った衛生管理が求められています。各国の法律や規制により、対象となる業種や規模は異なることがあります。
- QISO22000とFSSC22000の主な違いは何か?
- A
ISO22000は食品安全管理システムの国際規格です。一方、FSSC22000はISO22000に特定の業界の技術仕様を加えたものです。FSSC22000はより具体的な要件を含んでおり、特定のセクター向けに設計されています。
- QHACCPの基準を満たしている場合、ISOやFSSCの認証は容易になるのか?
- A
HACCPの基準を満たしている場合、その土台の上にISOやFSSCの要件を追加することで、認証の取得が容易になります。しかし、それぞれの規格には独自の要件があるため、完全に準備が整っているとは言えません。
- Qこれらの規格の取得が食品業界でのビジネスにどのような利点をもたらすのか?
- A
規格の取得は、消費者や取引先からの信頼を高める効果があります。特に国際市場では、これらの認証はビジネスの機会を拡大する要因となることが多いです。
- Q各規格の更新頻度や変更点についてどのように知ることができるのか?
- A
規格の更新情報は、それぞれの規格を管理する組織の公式ウェブサイトで確認することができます。また、関連する専門家のセミナーやワークショップも多く開催されており、そこで最新の情報を得ることができます。
食品安全は社会の信頼と直結しています。
HACCPと国際規格の知識を持つことは、食品業界での信頼を築くための重要なステップです。
この記事で得た知識を活かし、より安全で信頼性の高い食品提供を目指してください。
専門家として、そして消費者として、あなたの選択が業界の未来を形作ります。
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