食品安全は消費者の信頼を得るための不可欠な要素です。
しかし、その基盤となるHACCPについて、実際のところどれほどご存知ですか?
この記事では、食品衛生管理の専門家がHACCPの本質を分かりやすく解説します。
信頼の構築からビジネスの成功へ、第一歩を踏み出しましょう。
HACCPとは
食品衛生の管理を考える上で、食品産業者が避けて通れないのがHACCPです。
これは、食品の安全性を確保するための重要な仕組みとして、多くの国で導入が進められています。
しかし、HACCPとは具体的にどういうものなのでしょうか。
以下で、詳しくご紹介いたします。
HACCPの定義と目的
HACCP(ハサップ)は、”Hazard Analysis and Critical Control Point”の略で、日本語では「危害分析重要管理点」とも言います。
これは、食品の製造過程における危害要因を分析し、その危害を予防・管理するためのポイントを特定し、それを管理するシステムです。
目的としては、単に製品が完成した後での検査だけではなく、製造工程全体を通じて食品の安全性を確保することで、消費者への安全な食品の提供が可能となります。
また、事前の対策によってリスクを低減し、食品事故を未然に防ぐことも期待されます。
日本におけるHACCP
日本では、食品の製造や流通がグローバル化する中、食品の安全性をより高めるために、2018年6月に改正された食品衛生法に基づき、HACCPの導入が義務化されました。この法律により、2021年6月からは、この義務化が全ての食品関連事業者に適用され、HACCPに基づく管理が完全に義務化されました。
事業者は、自社の製品やサービスにおいて、食品安全管理のシステムを確立し、継続的にその効果を監視・評価する必要があります。これにより、食品の安全性が向上し、消費者の信頼を得ることができると期待されています。
HACCPの具体的な活動と手順
HACCPのシステム導入には、一連の手順と活動が必要です。
これらの手順は、食品の安全性を確保するための基盤となるものです。
導入を考える際には、以下のステップを順に進めることで、効果的な食品衛生管理が実現できます。
危害分析の実施
まずは、食品製造過程における危害要因を分析します。
この危害分析では、生物的、化学的、物理的な危害要因を特定し、それらの原因やリスクを詳しく調査します。
重要管理点の特定
危害分析の結果、管理が必要と判断されるポイントを特定します。
これが重要管理点(CCP)です。
ここでの管理が、食品の安全性を大きく左右します。
監視手順の確立
重要管理点での危害要因を監視するための手順を確立します。
これには、具体的な測定方法や頻度、そして対象となる基準値などを設定することが求められます。
是正措置の設定
もし監視の結果、基準値を超えるなどの異常が発見された場合にとる措置を事前に設定します。
これにより、迅速かつ的確に問題を解消することができます。
検証手順の確立
HACCPシステムが適切に機能しているかを確認するための検証手順を設けます。
これにより、システムの有効性を継続的に確認し、必要な改善を行います。
記録と文書の管理
すべての活動や結果を記録として残し、文書化することが必要です。
これにより、過去のデータを参照したり、外部の監査時に適切な証拠を提供することが可能となります。
HACCPの導入例
食品工場などでHACCPを導入する際の重要なポイントを、よりわかりやすく説明します。HACCPは、食品の安全を確保するための管理システムで、特に食品工場では以下の3つのステップに注目する必要があります。
原材料の受け入れから下処理段階の管理
この段階は「準汚染区域」と呼ばれ、食品の安全を守る上で非常に重要です。ここでは、以下の点に注意します。
- 異物や虫の混入防止 原材料を受け入れる際に、異物や虫が混入していないかを確認します。
- 病原微生物の増殖防止 原材料を適切な温度で保管し、病原微生物の増殖を防ぎます。
- 危害要因の分析 食品の安全を脅かす可能性のある危害要因を特定し、それに対する管理方法を決定します。
加熱・冷却工程の管理
この工程は「準清潔区域」と呼ばれ、以下の点が重要です。
- 適切な温度管理 食品を適切な温度で加熱し、病原微生物を死滅させることが重要です。例えば、大腸菌やサルモネラ菌などは特定の温度での加熱によって死滅します。
- 清潔な製造環境の維持 製造工程全体を清潔に保ち、食品の安全を確保します。
- 重要管理点(CCP)の設定 食品の加熱・冷却工程を重要管理点として特定し、科学的根拠に基づいた管理基準を設定します。
重要管理点(CCP)の設定後の温度管理
CCPを設定した後は、以下のように管理します。
- 継続的なモニタリング 設定した管理基準が適切に守られているかを定期的にチェックします。
- 管理基準の見直し モニタリングの結果に基づき、必要に応じて管理基準を修正します。
これらのステップは、食品の安全を確保するために非常に重要です。HACCPの7原則と12手順に従い、食品工場ではこれらのポイントに特に注意を払いながら、衛生管理を徹底する必要があります。これにより、消費者に安全な食品を提供することが可能になります。
HACCPの7原則と12手順
HACCPの実施における7原則と12手順を表にまとめました。
手順 | 名称 | 内容 |
---|---|---|
1 | HACCPのチーム編成 | 各部門から担当者を集め、必要に応じて外部の専門家を招く |
2 | 製品説明書の作成 | 製品の原材料や特性をまとめ、危害要因分析の基礎資料とする |
3 | 意図する用途及び対象消費者の確認 | 製品の使用方法と提供する消費者を明確にする |
4 | 製造工程一覧図の作成 | 受入から出荷までの流れを工程ごとに書き出す |
5 | 製造工程一覧図の現場確認 | 現場での動きを確認し、必要に応じて工程図を修正 |
6(原則1) | 危害要因分析の実施 | 各工程での危害要因を列挙し、管理手段を挙げる |
7(原則2) | 重要管理点(CCP)の決定 | 危害要因を除去・低減する重要な工程を決定 |
8(原則3) | 管理基準(CL)の設定 | CCPを適切に管理するための基準(温度、時間等)を設定 |
9(原則4) | モニタリング方法の設定 | CCPの管理状況を適切な頻度で確認し記録 |
10(原則5) | 改善措置の設定 | CLが逸脱した際の措置を設定 |
11(原則6) | 検証方法の設定 | HACCPプランに従った管理の有効性を検討 |
12(原則7) | 記録と保存方法の設定 | HACCP実施の証拠として記録を保存し、問題発生時の原因追及に利用 |
一般的な業種別の対策例
一般的な業種、例えば、製造業や小売業でもHACCPの考え方は役立ちます。
製造業では、原料の管理や製品の品質管理を強化するための対策が取られることが多いです。
一方、小売業では、商品の保存方法や賞味期限の管理に重点を置いた対策が行われます。
具体的な対策の取り組み事例
最近、とある製菓工場では、原材料の受け入れ時に、放射線検査を実施する取り組みが始められました。
これにより、安全性の高い製品を消費者に提供することができるようになりました。
また、あるレストランでは、従業員の手洗いや調理道具の定期的な消毒を徹底することで、食中毒のリスクを低減しています。
よくある質問
HACCPに関しては、導入を検討する際や実際の運用時にさまざまな疑問が浮かぶことが多いです。
ここでは、食品衛生管理の専門家として、よく寄せられる質問とその回答を紹介します。
- QHACCPはどのような業種で必要とされるのか?
- A
HACCPはもともと食品産業での食品の安全管理を目的として開発されました。しかし、その考え方や手法は他の産業、例えば製薬業や化粧品業界などでも参考にされることが増えてきました。基本的には、製品の安全性や品質を確保する業種であれば、HACCPの導入が考えられます。
- QHACCPの導入にはどれくらいのコストがかかるのか?
- A
導入コストは、事業者の規模や現行の管理体制、必要な機器や研修などの要素によって変動します。初期のコストは高くなることもありますが、中長期的に見れば製品のリコールや食中毒発生による損失を防ぐ効果が期待できます。
- Q小規模事業者でもHACCPは導入可能か?
- A
はい、可能です。実際、小規模事業者向けのシンプルなHACCPの手引きやガイドラインも提供されています。導入の際は、事業規模や特性を考慮した適切な対策を選ぶことが大切です。
- QHACCPの更新や監査はどのように行うべきか?
- A
定期的な内部監査や外部の第三者監査を実施し、システムの適切性や問題点を確認することが推奨されます。また、新しい危害要因が発見された場合や製品ラインが変更された時など、HACCP計画の見直しを行うことが必要です。
- QHACCP以外にも食品安全の対策は存在するのか?
- A
はい、存在します。HACCPはあくまで一つの手法です。他にもGMP(良い製造方法)やISO22000など、様々な食品安全管理の方法や基準が存在します。それぞれの特性や目的を理解し、適切に選択・組み合わせることが大切です。
食品の品質と安全性は、事業者の責任と信頼性を示す大切なバロメーターとなります。
HACCPの正確な知識と適切な活用は、そのための最も有効な手段の一つです。
今日学んだことを活かし、より高い品質の食品提供を目指してください。
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